子どもの頃はガンジーといえば「聖人」のイメージしかなく、近年になって、彼の晩年のスキャンダル等を知り、ぎょっとしました。
おかげで彼についての書籍を読みたかったのに、どれを選んでいいのやら。しかしある日、平積みされている本書の、「魔王」というタイトルを見て、「ああ、これなら」と思いました。
文章は評伝というより小説の体裁で、ごくゆったりと進みます。
俗を嫌いながら俗に魅力を感じ続け、目指していた聖人ではなく狡い政治家になっていくガンジー。
断食でさえも政治的かけひきとして利用する、そんな自らをゆるすことができず、達成できなかった平和を遠望し、内心で苦しむ晩年の描写が素晴らしい。
暴露本的ないやらしさはなく、筆者は終始「生まれては消えていく人間の一人」としてのみ「Xさん」に呼びかけ、炎天下、彼の足跡を淡々と辿り続ける。
「人生の行路で、悪魔から神に変わったと正直に言えない人は、どうか、私の幸福をかき乱さないでください」(本文より)
ハンセン病に苦しむ人から自殺はゆるされるだろうかと訊ねられると、「ゆるされるでしょう、しかし方法は断食による餓死をおすすめします」と「Xさん」は言う。
その理由は、「思いとどまったとき、まだ引き返せるから」
・・・これは悪魔の言葉でしょうか? 神? 聖人? 俗人?
悪魔でもあり、神でもある。マレビトは鬼でもある。俗にまみれ性にとりつかれ、身勝手さも臆病さもある、一人の男の言葉、行動、だからこそ心に沁みる。
読後、幼い頃に持っていたガンジーの「聖人」イメージは見事に崩れ、しかしその殻の内側から生まれたのは、いつでも「ろくでもないなあ」「何もできないなあ」と嘆息したくなる、みっともない「自分」に近い何かでした。
強烈なエピソードや大きな起承転結のない物語、ですが読後、あたたかい気持ちになる一冊です。
精神が疲れている時、お勧めです。