『魔女の息子』です。
『ゲイのフリーライター和紀の日常を描く。老いらくの恋に燃える母親に接するうち、彼の中で何かがうずき始める…。人間の弱さ、いとおしさを伝える自伝的作品。第40回文藝賞受賞作。』
まず基本設定として、米中枢同時多発テロ事件以降、平和平和という声がやたらと聞かれるようになった時代。主人公は四十路の独身で、ゲイのフリーライターです。家庭環境はというと、母親が老いらくの恋に燃えていて、そんな母と弟に嫌気がさした兄は既に家を出てしまっています。ゲイにせよ老いらくの恋にせよ、他人に迷惑をかけずに自分の好きなように自由に生きるのは、雁字搦めの社会においては難しいのでしょうか。
というわけで、作中では幾度か男×男の性描写が出てきます。けっこうどぎつくもあります。
作中には多数の人物が出てきます。母親や好きな男や仕事関係の人や……その全てを、主人公はどこか冷めたような批判的な目で見ています。でもそれは上から目線のこきおろしではなく、自分自身がゲイということで社会の底辺ということで、どこかもの悲しくせつない視線です。世界平和なんて言われても、自分が平和にほど遠いわけですし。
カテゴリーとしてはやはり純文学の方に入るでしょう。エンタメとして物語的な盛り上がりはさすがにありません。ただし随所で細かい伏線をちりばめて少しずつ回収しながら進んでいくので、読み進めるベクトルは持っています。
日常を過ごしているうちに、人間関係は刻一刻と変わって行きます。そんな中で迎えるラストでは、主人公は○○を呼び出して○○を受けに行こうとします。
結果は書かれていませんが、たぶん……
それでも、今までよりは少しだけであっても強く前へ一歩を踏み出そうとする終わり方で、余韻のあるラストだったと思います。
本はさほど厚くありませんし、文章も平易なので一気に読めると思います。登場人物が多数入り乱れるので、混乱してしまわないように読みたいものです。
評価は★4です。