1977年刊行。ハード・ロマンと言うよりは恐怖パニック小説。全編サスペンスフルな展開で、本当に容赦なく恐い。
南アルプス赤石山麓の秘境にある湯治場の宿。台風の接近による暴風雨の影響で孤立してしまったこの山荘では、様々な男女が投宿していた。銀行強盗犯人の男。その犯人を追う刑事。強盗した金を横取りしようと企む暴力団員たち。その他、女子大生グループや老夫婦などの数十人の男女が閉じ込められ、やがて激しい風雨の為に山荘は徐々に倒壊し始めていく。さらにもっと最悪なことに、外には絶滅したはずの伝説の日本狼の群れが牙をむき待ち構えていた。
心臓の弱い人は観ないでくださいという宣伝コピーの映画が昔あったが、この小説は心臓の弱い人は読まないでくださいということになるのかもしれない。それくらいに本当に恐い。作品によってはどことなくおおらかで飄々とした作風のハード・ロマン小説もある西村寿行であるが、今作ではその恐怖のつるべ撃ちには一切妥協はない。密閉された空間で恐怖の限界に耐え切れず狂気に走っていく集団というのも充分恐いが、やはり一番恐いのは獰猛な狼の群れが襲いかかってくる時の描写。暗闇の中に狂気の赤い眼だけが次々と浮かび上がってくるところなんて気持ち悪いくらいゾッとする。読むには多少の覚悟がいる作品だ。読後感の後味の悪さには辟易するかもしれない。でも、寿行らしい自然界の厳しさを冷徹に見つめる姿勢や、動物に対する尊厳な眼差しが感じられる。