史実に沿った『三国志』の曹操に関する概説をつづっている。
特徴としては、曹操を『演義』が言う様な「乱世の奸雄」でもなければ、『正史』のいう「超世の傑」でもない、人間味あふれる人物として捉え、それが一貫している点にある。
基本的に学術的に曹操を捉える本であるため、感情的なものは排除されいるので、小説的なものを期待する人には向かないが、うんちくを一つ抜けて確かな知識を得たいと考える人に適している。
全体的に学術文献として遺憾のないものであるが、2,3苦言を呈せざるを得ない点がある。
まず、原版は10年以上前のものなので、あとがきがその時のものと文庫版用と2種類あるが、原版のあとがきは大学生の「定期試験に代わるレポート」のレベルの結びだったので、少々物足りない。
次に曹操の再評価について郭沫若の名前しか記していないので、あたかも曹操再評価の動きが郭沫若一人によるものかのような印象を受けてしまう。(実際は文学面で魯迅が、政治面で毛沢東が行い、これらの流れを引き継いだのが郭沫若。)
3つ目に後漢、曹魏の「禅譲」に関して、「中国史における以後の禅譲はこれに倣う」とここまでは正しいが、「中国史における王朝の交替は『ほぼ全て』禅譲によるものなので…」といった旨の致命的な間違いを記述しているのはいただけない。
著者の石井仁は三国志学会の渡邉義浩と勉強会もしていたようだが、こういう事があると三国志学会に対してどうしても疑惑を抱いてしまう。