「……もう『金字塔』は作れないわけですからね。なぜなら、それは僕が生きてるからってことなんですけど。」 (本文より抜粋)
中村一義、対談形式による初の自伝。彼のファンになってからまだ数年なので、インタビューを読む機会にそれほど恵まれていなかった。その上、デビュー当時ほどメディアを騒がせる存在ではなくなっているので(不本意極まりない。彼の作品は今でも日本語ロックの頂点をひた走っている)、インタビュー記事が新しく出てもさほど内容が充実していない。 だからこの本が出ると聞いてまっさきに予約したのだが、先に結論だけ言うと、ファンなら「買い」です。ファンじゃない人は、どうだろう、幼少期のエピソードなら割と楽しめるから借りて読んでみるのもありかな?
読んでみて改めて思ったのだけれど、この人、とにかく一つ一つの行動に一本芯が通っている。壮絶な殴り合いの果てに両親が離婚にふみきったときも「オレはどっちにもつきたくはない」と言い、なんとそれ以来母親には会ってさえいないという。 デビューに際してそれまでの曲のストックをすべて消去したという話もファンの間では伝説だろう。個人的には、テクノに傾倒し電気グルーブよろしく踊りまくっていたころの音源を聴いてみたかったりもするのだが(笑)ともかく、次のステップに進むためにはいったん全てをリセットしなければ気がすまない彼の拘りは、ほんとうに凄いと思う。
意外な人脈、意外なリスペクトを知ることもできる。たとえば幼少期の彼の孤独な心を支えたブルーハーツ。リミックスコンテストで彼の才能を早くも理解していた小室哲哉。宅録ですべてをこなしていた中村を「君は誰かと一緒にモノをつくった経験がないね」の一言でバッサリ、バンド100sを結成するきっかけを与えた細野晴臣。などなど盛りだくさんで、彼の音楽を聴く新たな視点が得られる。
前にどこかで書いたと思うんだけれど、彼は今後またソロに戻るんじゃないかな。バンドという方法論で試すことは、彼にはもう残っていないと思うし。それに、彼ほどの才能があれば、またバンドを組みたくなったらそれこそ引く手あまただろうしね。 ……いや、というより僕自身が、ふたたび一人になったときに彼の生み出す音が聴いてみたい。彼のつむぐ言葉を聴いてみたい。