慎重な内科医師の中には、年齢に関係なく厳しい血圧コントロールを勧める最新の「高血圧治療ガイドライン」には違和感を覚える者もいるのは確かだ。厳しすぎる降圧治療目標値の陰には、高価な降圧薬を販売する製薬会社の思惑が見え隠れしているとの著者の意見に私も賛同する。しかし、本書で紹介されている医学的に誤りのあるデータ解析方法や解釈は、著者の主張全体の信憑性を損なうものである。
降圧薬によって血圧を下げるリスクの最大の根拠として提示している「国民栄養調査」や「茨城県の健康診断調査」の解釈方法に問題がある。これらのアンケートによる追跡調査の結果を独自に解析しなおして、「降圧薬非服用群に比べて、降圧薬服用群で自立者の割合が低く、死亡相対危険度が高い」のだから「降圧薬は危険だ」と結論している。しかし、この解釈には重大な誤りがある。2群への無作為な振り分けでない以上、降圧薬服用群の人々は、もともと高血圧以外の何らかの病気で医師の治療を受けている可能性が高いと考えるのが自然だ。例えば、糖尿病や高脂血症などの慢性疾患、更には脳梗塞や心筋梗塞の既往のある人たちが多い可能性が高い。そうであれば、自立者の割合が低く、死亡相対危険度が高いのは、降圧薬服用のためではなく、もともとリスクの高い人たちばかりが集まっていたからという結論になる。通常の医学臨床論文では、2群で比較するならば降圧薬服用以外の因子に差が無いことを大前提とする。
これに比べると、本著に紹介されているフィンランドの大規模介入研究に関する説明は比較的説得力がある。これは、血圧140-150/90-100程度の患者には、降圧薬を投与しない方が長期的予後は良いというものだ。これくらいが穏当な主張ではないだろうか。
著者の趣意は理解できるが、医師の著書である限りは、医学的に妥当な方法を用いて論じる必要がある。また、読者が著者の主張を検証するためにも、引用されている参考文献の一覧をつけて欲しいものだ。