主人公の役人も、喜助も、死んだ弟も、誰もが現代でもごく普通にいるような人間。私が喜助のような立場であったとき、きっと迷わず弟を楽にしてやっただろうし、弟であったなら、申し訳ないと思いつつも喜助にすがるしかなかったであろうと思います。でもそれが善ではないし、かといって悪とも言い切れない。安楽死、人を裁くことの難しさ、そして人間の当たり前に持つ良心や弱い部分を淡々と描いた作品です。言葉は決してきつくないのに、さらりとつづられる言葉の一つ一つがここまで重く心に響いてくるのは、人間の本質や尊厳について深く知った鴎外によるものだからこそでしょう。シンプルな構成の中に、色々な角度から見た死と人生があります。一生のうちに一度は読んでおきたい作品ですね。