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もっと自分を鍛えたい
――1999年に史上最年少の23歳で芥川賞を受賞した『日蝕』をはじめ、『葬送』や『文明の憂鬱』などの著作は、かなり難解な文章でした。今回の『高瀬川』は、一転して非常に現代的な文体ですね。
漢語を多用してきた今までの私の作品については、読みにくいという批判を受けました。現代人なのに、何でわざわざ小難しい文体にするのかと。
今回は、そういう批判に対して応えたのではなくて、作家としての挑戦だと自分では思っています。テーマも現代の若い男と女の性的な関係に正面から取り組みました。欧州の中世や人間の死について哲学的な視点から取り組んできた作家が、こんな作品も書くんだ、書けるんだということを示したかったのです。
ただし、男女の性を扱うからと言って、読者の性的興奮を促すことが目的ではありません。性的な描写が多くて誤解されると困るのですが、私は人間のコミュニケーションの延長として性を描いたつもりです。私は、宗教家であり哲学者でもあるジョルジュ・バタイユが、日常を彫刻したというエロチシズムの世界に惹かれてきたのですが、一方で歴史的、宗教的背景の中で作られてきたこれまでの性に対する観念への反発もありました。
――平野さんの本を読むと、何か社会に対する反発が作品を書くエネルギーになっているような気もします。
そういう面はあると思います。例えば、私が漢語を多く含む文章を書いてきたのは、私が受けてきた教育に対する反発というか、コンプレックスがあるのは事実です。
学校でまともな教育を受けさせてもらえないまま大人になってしまったという気持ちが強いのです。古文や漢文、英語もその面白さ、そしてそれを身につけることの大切さを教わってきたのではなくて、試験を通るために必要なことだけを勉強させられた気がしてなりません。
明治時代の人たちは、いわゆる教養があって、その教養を基に深い思索をしてきたでしょう。現代の私たちと表現力に決定的な差がついているんじゃないかという危機感があるのです。深い教養と思索なしに表現することの浅薄さ、危険性。私が抱くコンプレックスは、明治時代の人たちに対して特に強く感じます。
もちろん、当時に比べればコンピューターなど新しいものがいっぱい出てきて、私たちがやらなければならないことが増えました。しかし、コンピューターで人間を表現することはできません。もっともっと自分を鍛え磨かなければならないという気持ちが、私の小説の原動力にもなっています。
――作風を大きく変えると、せっかくのファンが逃げてしまうという危機感は覚えませんでしたか。
作家として、私はまだ駆け出しで、いろいろ挑戦してみたいと思っています。男女の性を正面から取り上げたのも、小説の中で中途半端に扱うなら全く書かない方がいいという考えでした。作家には、時間をかけて1つの技を職人芸のように磨き上げていくタイプもあると思いますが、私は生来飽きっぽいせいか、そういう方法は向いていないようです。
私がいろいろ挑戦するので、読者もきっと、ついたり離れたりするでしょうが、そういう読者の人たちと人間とは何か、社会とは何かを一緒に考えていきたいと思っています。
( 川嶋 諭)
(日経ビジネス 2003/04/14 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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