戦前の偉大な政治家の自伝でしかも地味な表紙。なんか堅苦しそう、とか退屈そう、という先入観を抱いてしまいがちですがとんでもない!これほど読んで楽しい波瀾万丈物語は滅多にありません。
留学したつもりが奴隷(といっても『ルーツ』『ベン・ハー』みたいのではなくて年季奉公人の下男っぽい感じ)に売られるわ、帰国後放蕩の末に芸者のパシリになるわ、運良く大蔵省に就職したのに前島密(一円切手の人)とケンカしてすぐやめるわ、と暴れ放題だった上巻に比べると、実業界で成功して社会的地位もついてくる下巻は随分おとなしめになりますが、その分日本の政治経済の重要局面に関わることが増えてくる上に、語り口の親しみやすさもあって飽きさせません。日露戦争の費用調達のために海外で奔走するくだりでは、通常軍事・外交・諜報に注目の集まりがちなこの戦争の財政的な側面を明らかにしていて、目ウロコの驚きを味わいます。戦争とは経済行為でもあるのですね。
この費用調達で名を挙げた是清はいよいよ国家経営の中枢に近づき、蔵相や宰相として金融危機に対処したり増長しつつある軍部と渡り合ったりするわけですが、残念ながらそこまで話が進まないうちに語り手たる当人が二・二六事件で殺されてしまい、自伝は未完に終わってしまいました。全くもって悔しい限りです。
それにしても、色々と問題の多かった明治大正の日本ではありますが、こういう迷走人生を送ってきた人が政界で活躍できる社会というのはいいですね。