読書好きほど読むジャンル、好む文体が偏ってくるようである。自分が気づかなくとも、この学生のために編まれた『高校生のための』三部作に目を通していると思い知らされる。「こんなに多様なテーマ、文体があったのか」と自分が井戸の中の蛙ではなかったかと身震いがしてくるほどである。本書はもともと学生のためのものであるが、多忙で自分の好む、あるいは必要な本しか読めない社会人にとっても、短文読み切りで手軽に紐解くことができ、日本語が本来持っている豊かな表現力、多様な文体の可能性を体感させてくれる役立つアンソロジーである。『小説案内』に収録されている40編の代表的な書き手を掲げると、中島敦、スタンダール、野上弥生子、金石範、宮沢賢治、三島由紀夫、二葉亭四迷、ヘミングウェイ、井伏鱒二、シートン、佐藤春夫、トーマス・マン、谷崎潤一郎、島崎藤村、大江健三郎らである。編者の小文である【手帖】も一読に値する。