まず、幕末の長州における吉田松陰の影響力を語るために、作品冒頭は高杉晋作
ではなく松陰の生い立ちから最期までを描いており、
初めはその部分が、言うなれば、のんびりしていてつまらなくも感じたが、
読み進めると、松陰が晋作その他の松陰門下の長州藩士の思想及び行動規範の根
源となっている事を強調するために必要なものなのだと考え直した。
本作は、よく知られる晋作の行動・発想の奇抜さだけでなく、詩の才能の方にも注目し、詩が数多く出てくるのだが、
それが、貴族が詠むような修辞や形式に凝り固まったものではなく
自分の置かれた状況や現在のその時々の心情を曇り無く吐露しているような作
風のものばかりで、
晋作の人物像がよく分かるもので面白い。
上士階級に属し、昔ながらの固い考えの父を持つ晋作が、
無茶をして父を心配させる事に気兼ねをしつつも時代の風雲に身を投じ、
藩の世子や同志に愛されながら才能を発揮してゆくのだが、
戦闘場面をもう少し広げて派手さがあっても良かったのではないかと思わなくも
ないが、
晋作の内面の機微をうまく捉えた丁寧な作りでなかなか楽しめる作品だったと思う。
読んで損はない。