道尾作品は、綾辻行人や京極夏彦からの影響が取りざたされているようですが、
少なくとも、本作から受ける印象は「横溝正史の隔世遺伝」といったものです。
横溝の世界観を違和感なく、現代にアップ・トゥー・デイトさせた物語――、
という解釈が、個人的に一番しっくりきます。
その印象を裏付けるものとしては、
『獄門島』 の「気ちがいじゃが仕方がない」
を彷彿させる言葉の聞き間違い、あるいはダブルミーニングが多用されている
ことが挙げられます。
真夜中に響く「……マリ……マリ……」という不明瞭な声、探偵役のバツニという言葉、
そして、「鎌で、あの人は――私が殺した」というある人物の告白……。
一つひとつを見れば、他愛もないダジャレめいたものなのですが、聞いた人が
勘違いし、しかもそれが他に連鎖していくことで、「不可解な連続殺人事件」
というメカニズムを駆動していくことになります。
著者は、ある
インタヴューのなかで、本作について以下のように語っています。
〈「単純な連続殺人ではなく、一つの死自体が別の死を呼び込み、
それが連鎖してしまった」という不運を描いた話〉
これに続けて、犯人が仕掛けるトリックはあまり重視しておらず、むしろ
〈「トリックが人を殺す」ような話は書きたくない〉とまで述べています。
人を殺すのはあくまで人であって、決してトリックではない――、と。
かねてから著者は、「本格ミステリは人間を描く手段として最も有効だ」という主旨の発言
を繰り返していますが、その真骨頂が、本作において余すところなく発揮されています。