戦地から引き揚げてきて「骸骨ビル」と呼ばれるビルで捨て子たちを育て上げた若者二人のその後の話だ。
宮本が光を当てるのは、市井の人々たちだ。それも中流と下流といわれそうな生活ぶりの人たちばかりだ。しかし宮本の視線は優しく、憑かれたように懸命に生きる人たちを暖かく見守る。
骸骨ビルの住人たちを立ち退かせるために派遣された主人公ヤギショウは、職責を果たすのでもなく、ただ、住人たちの話を聞き、悠々自適な生活をする毎日だ。しかし住人たちは何を思ってか、次々とヤギショウに自分の過去を語り始める。
本作をミステリー仕立てに見せる女夏美が登場するが、本作は決して「夏美とヤギショウの間には何が起こったのか。夏美は骸骨ビルの住人たちと和解するのか」という謎を解読する物語ではない。
世の中から見捨てられたような人生を送ってきた住人たちが、ヤギショウなる人物の出現をきっかけに、新たな人生を生き始める物語なのだ。
550頁あまりの長さで語られる人と人との温かいふれあいの物語を読み進めるうちに、私たちは「救済された」ような気持ちになる。こういう濃厚な人と人との感情は、最近の私たちが最も触れにくいものになってしまっていることが哀しい。
骸骨ビルの庭(上)骸骨ビルの庭(下)