本書は、普段指し慣れている一つの平手戦法(矢倉・四間飛車・三間飛車穴熊)で駒落ち将棋(六枚・四枚・二枚・飛香・飛・角・香落ち)をも戦おう、という趣旨の戦法書で、実直・誠実な高橋道雄先生の意欲作、と思います。
古来から伝わる駒落ち定跡は確かに優秀で、上手陣の弱点を的確に突く攻めの形と手順、上手の駒を働かせない考え方と指し方、上手陣を破った後の迅速な寄せ等、張り詰めた一本の糸を思わせる「芸術品」と言えるでしょう。
しかし上手に変化された時はいっぺんに勝ちにくくなり、もしそれでも下手が勝ち切れるなら平手でもそこそこ良い勝負ができるはずです。実際、昔の人達はそうやって「戦法や定跡にとらわれない本当の力強さ」を身につけてきたわけで、駒落ち定跡による棋力向上という側面は否定できません。
が、ネット・携帯将棋全盛の昨今、平手将棋がほとんどで棋力向上が可能なほど駒落ち将棋を指す機会が少ない、ことも確かです。そこで、本書の出番という訳ですね。
本書は、例えば飛香落ちと飛車落ちとで異なる下手側の攻め筋や上手の指し方を紹介する等の工夫で、一つの戦法の章を読了すると、平手将棋でもその戦法での飛車交換や角行交換に頼らない攻め筋を活かして指しこなすことができるようになります(平手定跡は大駒交換に依存している部分が多く、大駒交換を封じられると一気に弱くなる人は結構多いです-私自身もそうですが(^^;))。
本書は、初心者の方から(私のように)駒落ち将棋をきちんとマスターしないで有段者になったような方まで広くおすすめできます。まぁ欲を言えば『将棋大観』等の古来から伝わる駒落ち定跡の解説書とあわせて勉強すると、棋力の大幅な向上は確実でしょうね。
なお四間飛車・三間飛車穴熊の香落ち定跡は必然的に相振り飛車戦になりますので、その解説も大いに参考になりました。