この映画は、オリンピックに出場するほどの射撃の腕を持った刑事が、凄惨ないくつかの事件を追う姿をを軸にして展開していきます(底層)。
その過程で起こったさまざまなエピソード(老コーチの殉職、妻との別れ、犯人とその妹との出会い、自分が射殺した犯人の母の慟哭など)のなかで、刑事という仕事の矛盾と疑問を痛々しいまでに胸の中に抱え込んでいく寡黙な一人の男の姿を描いています。そんな胸の苦しみをつかの間忘れさせてくれる、ひとりの女性との出会い。(中層)
そのような痛み・苦しみをやさしく癒すかのように、絶えず降りしきる雪、垂れ込める雲、朝焼けの凍りついた集落、そして舟唄・・・(上層)
台詞の一言一言が胸に染み入る脚本(倉本聰)、登場人物の心情を見事に厳冬の北海道の情景に描写した撮影(木村大作)、その心情・情景に観るものを深くいざなう音楽(宇崎竜童)、監督降旗康夫をはじめとしたスタッフの偏執狂とまでいえるほどの「美しい」映画を撮ろうという意気込みが伝わってくる映画です。
大晦日の夜、お互いの言いようのない孤独を抱えて寄り添う男と女。このシーンには半端じゃなく引き込まれます。健さんと倍賞さんが実際に付き合っているんじゃないかと思わせるほどです。居酒屋のストーブのやかんから立ち上る湯気に包まれて本当に幸せそうに健さんの胸にからだをあずける倍賞さんの後姿。見事としかいようがありません。