「駅前旅館」とは最近聞き慣れない言葉だが、この本を読んでその意味や意義、そして著者の駅前旅館への熱い想いが僕の心に強く残った。
鉄道とともに重要な役割を担った駅周辺の施設、例えば駅前食堂、倉庫や官舎、バスやタクシーの営業所、雑貨屋、自転車置屋、新聞屋などとともに駅前旅館も欠かせない存在だった。しかし社会の絶え間ない変化について行けずに姿を消したものが非常に多い。
地域密着型とか地元の人々とのふれあいといった聞こえだけ良い空々しい言葉が世間にあふれる中で、無口で飾り気のない駅前旅館こそ地方色そのままのホンモノの地域密着施設(というより地域そのもの)である。
だからその地域や社会、土地の歴史を学ぶには最高の施設である。著者は言う。駅前旅館に泊まる感覚はホームステイに近い、と。
しかし駅前旅館は今も減りつづけている。自然体でつづられた駅前旅館の素朴な楽しさ、意義深さに僕は感慨をあらためる一方、駅前旅館になんとか残っていてほしいという著者の熱い想いがときどき悲痛な叫びとなって僕の耳にとどく。このまま駅前旅館の廃頽が進んでもいいのか、と。
願わくばこの熱い想いが多くの人々に伝わり、駅前旅館のすばらしさが広く認められることを僕も切に望んでいる。