題名を見ると駅伝に批判的な人が書いた本のように見えますが、この本は駅伝とマラソンを深く愛する著者の思いを熱く語った本なのでした。
何しろ、著者は、箱根駅伝がテレビ中継されるずっーと前からの駅伝ファンで、1984年に早稲田大学が優勝したときには、「感謝、とにかく感謝」と震える声で語る中村監督の優勝インタビューのロジオ放送を録音するほどのマニアです。
そんな著者が指摘しているのは、日本テレビが中継するようになって、箱根の注目度がぐっと高くなったことです。おかげで高校の有力選手が関東の大学へ進学するようになり、関西の大学から長距離の強豪チームが消えました。同じ陸上トラック競技の中でも、学生の人気が20キロ区間偏重になったため、1万メートルの中距離選手も、42キロのマラソン選手も育たない状況が続いています。
また、箱根で目立つと入学試験受験者が増えることに大学当局が目をつけました。学校名をテレビでアピールしたいばかりに一区、二区にエースランナーを投入するように監督にやんわり圧力をかけることも十分考えられます。まぁ、監督も同じ思惑なら問題にはならないのですが……。
本書で初めて知ったのが、オリンピックのマラソン選考レースのジレンマです。
アメリカのように、選考レースを一発勝負で実施している国もありますが、ご存知の通り、日本陸連は複数回のレースを経て出場選手を選んでいます。
こういう慣習ができたのは、1988年のソウル・オリンピックの男子マラソン選考がきっかけです。瀬古選手のために選考レースを増やしたような不透明な決定のおかげで、複数の選考レースというあいまいな方式が定着してしまいました。
アテネの選手選考にも様々な思惑を招き、高橋直子の悲劇を生みました。きっと、北京、ロンドンの選考でも誰かが傷つくことになるだろう、という重苦しい著者の予言が心に残りました。