三軒茶屋の路地の突き当たりにあるビアバー「香菜里屋」。
カウンターの中からいつでも美味しい料理と酒、そして客たちの
会話から浮かび上がるミステリーの謎解きの鍵をそっと差し出してきた
マスター・工藤。
「花の下にて春死なむ」「桜宵」「蛍坂」と続いてきた連作の完結編。
今までは、客たちの抱えている謎を解いたり悩みを少し軽く
してあげたり、と、主人公というよりは語り手であり、サポーター
として物語を支えてきた工藤だが、ラスト1冊の本書では、
彼自身の物語が初めて語られる。店を開く前の過去のある事件、
そして店名の由来になっている「香菜」という女性との出来事…
しかし、それらが描かれることによって今までやさしくぼんやりと
していた工藤の輪郭がはっきりと浮かび上がるような終わり方では
なく、かえって、消化不良をおこしてしまったような(要は、まだ
語られてない真実がありそう…みたいな含みをもたせたまま、
このシリーズのエンディングを迎えてしまうのだ)感じがした。
もともと、ミステリーとして読むとこのシリーズ、割と
「消化不良な感じ」が残る謎解きもいくつかあったのだが、
それでも店で出されるビールや料理の描写がおいしそうなので
読み続けてきたのだけど…最後には、工藤自体が自分の人生最大の
謎を全部明らかにして大団円、みたいな判り易い終わり方でも
よかったのに。と、一番食べたかった特別料理が売り切れで残念、
みたいな物足りなさが残った。お店の雰囲気、常連たちの会話など
実際にどこかにこんなお店ありそう、あったら楽しいかも、という
ところは大好きでしたが。なので、終わるなら、それなりに
終わる必然性というか、工藤がある決断をしただけの理由がもっと
リアルに描かれていてほしかった…要は、常連の人たちと同じで
もう香菜里家に行けないのがさみしいのだ、たぶん。