台湾という言葉を聞くと、映画「多桑」とこの小説「濁水渓」をいつも思い出してしまう。
前者は「日本に惚れ抜いた男の物語」、後者は「日本にシニカルな男の物語」です。
どちらも、真実なのでしょう。
「親日」が強調されることが多い台湾ですが、日本統治下において台湾人が、物心両面を含めて100%の自由と平等を謳歌していたかとなると、疑問を感じてしまいます。
「東洋一のダムを造った」「下水道を敷設した」「義務教育をスタートさせた」等々、ある意味で本土を上回るインフラと社会制度の充実ぶりの中にも、満たされないものもあったのではないでしょうか。
自伝的小説「濁水渓」は、とりわけ台湾人としての内面の葛藤にポテンシャルを置いた作品という意味においては、おそらく本邦初のものでしょう。
また、2.28事件についても触れられていますが、長期に渡りタブーとされてきたこの問題を、いかに小説の形とはいえ、事件勃発後わずか数年で活字に残すことを決意した作者と出版社には、度胸があったとしかいいようがありません。
多大な震災義援金を頂戴した台湾ですが、その多くは日本語世代の高齢者からのものだったとも聞いています。
彼らの複雑な心象風景を知る意味でも、本書は必読かも知れません。