上巻ではややnegativeな印象を強調するようなレビューになってしまったが、
作品の中に素晴らしい部分がいくつも存在し、あと一歩で小松氏の後期の代表作で、
歴史に残る傑作になっていた予感がするだけに、ほんとうに残念で仕方がない。
ただ、作品の読後感は20数年前よりはるかにいい。
一つには今回google mapとgoogle画像、wikipediaをリンクさせながら本書を読んだせいで、作品がより深く理解できた点があると思う。
また、作品が出版されたのも、まさにバブルが始まろうとする時期で、日本社会が楽観主義に押し流されていき、
真剣に明治時代からの「日本の宿題」を考えていこうという気持ちを急速に失った時期に相当した事も大きかったのではないだろうか。
地名一つをとっても、小松氏の作品は膨大な量の情報を扱っており、自衛隊の仕組みや、
米国の政治の仕組み、様々な潜水艦や空母の写真や情報等を、同時にリンクさせながら本書を読み解いていくと、
本当に作品の背景にある情報量とその処理能力に、圧倒されてしまう。
本書を読むヒトが、そのあたりをどのように処理しながら本書を読み込んでいっているのかが
実は気になるところだが、私は、以前読んだ時に、このあたりを完全に読み飛ばしていた。
そうすると、作品の面白さが全く見えなくなってしまうだろう。
当時、この作品の後に、虚無回廊がSFアドベンチャーで連載開始になった時も、この作品への反動から、
もう小松の時代でもないなと、冷たい反応をしてしまったことを思い出す。
作品のdetailとは別に第一章、第九章”雲”と嵐のあたりはSFファンの心をぐっと掴む部分があり、
下巻406Pの最後の文章は、作品の最後として、ほっとさせられる文章で、すごくイイね。
小松氏の作品は一般的に、とにかく情報量が膨大で、今後、電子出版が主流になり、検索エンジンを、労せずして、
自由に駆使しながら読書をする時代が訪れる事になると、
もっともっと、多くの読者を驚かせることになるのではないだろうか。
作品のテーマも、その大量の情報に基づいたdetailも十分な大変な労作で、
もちろん、20年立った今でも、色褪せない作品に仕上がっている。