今は昔20世紀初めの英国老舗旅館ペニーフット・ホテルを舞台に夫亡き後も気丈に女主人を務めるセシリーと彼女を盛り立てる個性的な仲間達が巻き起こす推理と人情のドラマを描く大人気シリーズ第4弾です。本書ではペニーフット・ホテルで働くお馴染みのレギュラー陣に悲しい大きな事件が起きるのですが、でも回を重ねるにつれてお互いの気心が知れて上辺だけでない人間性の理解も進み昔からの家族の様に絆が深まって行く温かな人間ドラマが心癒されるシリーズの一番の読み所だと思います。
1907年の春の事、平和なバジャーズ・エンド村の森にジプシーの集団がやって来て不穏な空気が漂う。そして、ある夜ペニーフット・ホテルの常連宿泊客のフォーテスキュー大佐が村の酒場からの帰り道に奇怪な首なし騎士と遭遇しメイポールに縛られた女の死体を目撃する。女主人セシリーは最初また酔った耄碌じいさんの世迷言かと片付けていたが、翌朝ホテルの宿泊客のボスコム家三兄弟夫妻の一夫人がいなくなったとの知らせを受け俄かにその関連性に思い至るのだった。
本書のミステリーの部分では冒頭の怪奇的な趣が次第に尻すぼみになるのが少々残念ですが、警察を初めとする全ての人々がジプシーを疑う中で我らのセシリーが偏見のない確かな洞察力を発揮して被害者の親族達への聞き込みから消去法により真相を導き出す手際が鮮やかな見事さです。毎回楽しみな笑いあり涙ありの人間ドラマは、苦笑を誘われる耄碌じいさんフォーテスキュー大佐の頓珍漢な昔話の数々、メイデー(五月祭)を盛り上げる為のメイポール・ダンスを村の娘達に教え鍛える催し物係フィービの奮闘振り、部屋に閉じこもったまま食事にも出て来ない宿泊客の老人の謎と衝撃の真相、そしてめでたく結婚したガーティーとイアン夫婦に訪れる嬉しい吉報と逆にびっくり仰天の悲しい凶報です。最後のガーティーの不幸はセシリーやミセス・チャッブや料理人ミシェルのみんなが優しい心遣いで助けてくれるのできっと大丈夫でしょう。気になるセシリーの恋の行方の方はと言うと、まだ重大な進展はありませんがどうやらハンサムな新任医師のブレストウィックよりも支配人バクスターの方に分がありそうです。医師はセシリーと十分に心が通じておらず何だか不似合いに思えますし、身分の違いはあっても悲しい過去を持つ苦労人のバクスターを私は応援してあげたいです。さて、次回は恐らく今回お休みだった魔女と噂される装花係マデラインが戻って来るのと帰省するセシリーの息子マイケルが登場してどんな面白いドラマを繰り広げる事となるのか次作が紹介される日を楽しみに待ちましょう。