著者は、郷土料理や地域特産の食材の通です。日本全国を訪ね歩き、丹念に現地調査し、記事にもしています。しかし、特定地域の食を知っていることは、日本地図の上にランダムに点を付けるだけ。それでは満足できなくなった著者が、それらを繋ぐ線、さらにその線を包む面を考え、郷土の食を、流れの中で総体的に把握したい、そう考えて書いた本です。流れの把握に利用したのは、昔から、特定の食材や加工食品が専らそこを通って輸送され、また同時に文化もその道沿いに伝播していった道。食の街道といわれる道です。それを辿り、地元の郷土史家の話に耳を傾け、出発地と目的地では、その食材や加工品を扱う現地の老舗やお店を訪ね、今の食材調達の状況や伝統的な加工法を聞き、試食もしています。
本書には、12の食の街道が取りあげられています。運ばれた品物は、さば、ぶり、塩、あわび、昆布、醤油、鮎ずし、お茶ツボ、砂糖、豆腐、トウガラシ、さつまいも。主要消費地に運ばれる道程で、運ぶ食品が練れて美味しさを増す。その丁度いい時期に品物は目的地に着くように運ばれたそうです。先人の食に対する知恵のすごさを今更ながら感じます。また著者の事実に即する調べでは、食の伝播は単純な一方向の直線ではなく、往復もある複線の経路だった。他の文化の流れと同じ様相で、大いに納得できました。特に、伝承されたと思われたものが、実は新しく考案されたものであり、ところが、それが元型の復元とみられるものであることなど、興味深かく読みました。
しかし本書の魅力は、そんな分析的な食の報告書にはありません。なぜかお腹がすぐ空く著者が、探し当てた伝統食を現地ですぐさま満面笑みで試食する場面が一番楽しい。とりわけ、サツマイモを食する時が一番生き生きしています。しかし著者一人がいいお思いをしていると不快にならず、つい美味しそうでいいねと微笑んでしまいます。人徳ですね。