著者によれば数学は,数学科の学生向きの純粋数学と、工学部や
経済学部向きの「実用」や「目的」をもつ数学があるという。
ご自分の経歴からの数学学習法と、これも講義の経験からの数学
教育論が展開される。
全編にわたって、実用数学の面白さ、大切さが力説されるが、著者
自身は、純粋数学、革新的実用化の両方に通じた数学の達人である。
達人だからこそ、実用数学を細部にわたって、展開できるのだろう。
読者としては、数学の学習法についてのいろいろなヒントが参考に
なる。
数学が苦手、得意でないことが、数学の達人になる重要な条件でも
あるといった話など、学習が勇気づけられる。
第1章は「役に立つ数学入門」というタイトルで、意外にも純粋数学が
実用と結びついた例が、種々解説される。
因数分解と「暗号」との関連、多項式の計算と「バーコード」の深い
関係、微分方程式でツナミを解析するなど、初めは数学者が興味に任
せて研究したテーマが、数100年たって実用化されたという歴史の
逆説が多々紹介され、純粋数学への興味が刺激される。
第2章は純粋数学の話。その特徴と学び方。
第3章「数学者でない人の数学」では、モノから人への数学の応用と
いう観点から人間関係を表現するグラフ理論、文系と数学とか、マセ
マティカなど計算言語をどう使うか、とか、また大学での数学教育改
善論など緊急課題の解決法が提案されている。
終章では、「アカデミックスマートからストリートスマートへ」と
いう
タイトルで、ご自分の体験を踏まえて、数学との付き合い方、学び方が
語られる。
それにまたこの章では、当方シニアにも学生諸君の研究にも役立つ、「
統計の総合学習」のポイントが語られており、これは著者の研究方法の
種明かしでもあるようだが、実に興味深い。
また、組み合わせ論など、離散数学のすすめなど、大事な話が書かれて
いる。
といった具合で、「食える数学」というやや実用書的なタイトルにかか
わらず、中身は、新しい社会を見据えた数学の可能性を展望する、実に
大切な学問方法論の書だと思われる。
若い学生諸君にも、当方アマチュアのシニアにも、ひとしく興味深い本
である。