飛鳥は山間にあるはずなのに、水がどうかかわるのだろうか。そんな素朴な疑問と興味から本書をひもとくことになろう。
もちろん、古代の飛鳥であって、日本が誕生した場所、国家と文化の原像を知ることのできる場所である。日本の原像を知るにはゆっくり歩かねばならない、と自分の足で飛鳥を歩くことを勧めている。ここには数多くの遺跡が写真・図面入りで紹介されている。
キトラ古墳壁画、高松塚古墳副葬されていた海獣葡萄鏡、字書木簡、豊浦宮推定地、伝飛鳥板蓋宮跡遺跡など、行って見たくなるものが次々出てくる。宮滝遺跡の近くを流れる吉野川、飛鳥河辺行宮の登場あたりから、本書の中心テーマになる水につながる記載が多くなる。
飛鳥の土地が謎めいて語られるのは、あちこちに見慣れない形をした石造物(猿石・亀石・鬼の俎など)があるからである。
更に、飛鳥で掘られた運河の跡が、飛鳥池遺跡の東側で見つかっている。また、斉明天皇ら古代の王族は、人口の川や池を使った庭園を好んだ。天智天皇は、飛鳥に巨大な水時計を造った。それにちなむ水落の地名が今も伝えられている。
舒明天皇に始まる「水の王朝」、それは皇極女帝が再度皇位につき斉明朝となって、さまざまな水に関わる演出の仕掛けを作ることによって、飛鳥の水の風景はクライマックスに達する。その子たち天智、天武、持統までをその呼称にしたいと言っている。 八角形の墳墓の系譜として共通性があるとも言える。
近年飛鳥のことを「石と水の都」というキャッチフレーズで呼ぶこともある。水はなくても、石に水を連想する心の豊かさ…水への祈り。水に強いアクセントをおく飛鳥の風景。本書、水の王朝論は仮説に過ぎなくとも、これを手がかりに自らの飛鳥を歩けば、その人の心に清水が流れ来るに違いない(雅)