『風邪の話』松永貞一(永寿堂医院院長)著、日本医学館
双葉会診療所 片倉和彦
一読して、うちの待合室に置くことにした。
待合室に置く書籍の選択は難しい。あんまり格調の低いものは置きたくない。非科学的なものも置きたくない。でもわかりにくいものは要らない。専門用語だらけでは待合室におく意味がない。薬の宣伝誌などは置かない。文章が長いものは待合室に向かない。重い本は持つのが大変。字が小さいものは読む気がしない。高すぎる本は予算がない。
これらの関門を、この「風邪の話」はすべてクリアするのである。
この本は、格調が高い。風邪の歴史から始まり、ただの風邪ではなかった症例、風邪の予防、薬の知識などをしっかりと書いてある。風邪という簡単そうで実に厄介なものに正面から取り組んでいる。風邪のこと、風邪の薬のこと、治す、防ぐ、生活、など、著者自信の実践への思いが感じられる。
この本は科学的である。市販の風邪薬の成分、薬を飲んだときの血中濃度の移り変わり、などが表になっている。著者は、慈恵医科大の臨床検査医学教室の助教授、昭和薬科大学の客員教授、などを勤めてきた方である。豊富なデータが説得力を増す。
この本はわかりやすい。著者は小児科での実践を積んできただけあって、たとえ話がわかりやすい。インフルエンザワクチンをしていてもインフルエンザにかかる人がいるのでワクチンは無駄、と考える人に対して、こういうたとえ話を用いている。「鎧を着ていても、戦場で死ぬ人がいるからといって、あなたは関が原の戦いに裸で参加しますか」と。
風邪のときの布団の重さ、風邪のときの入浴など、医療関係者にとっても参考になる。患者、家族への話し方の参考にもなる。
専門用語は少なく、言葉の選択がうまい。もちろんスポンサーなどいない。章立てが1ページ半ごとなので読みやすい。本が重くなく、字も小さくはない。1050円である。
この書評を読んでいる貴殿の診療所待合室に2冊、いかがでしょうか。
(書評:「診療研究」第429号54頁、2007年7月号、東京保険医協会)