9編の短編は、すべて貧乏をテーマにしている。
それなのに気持ちが暗くならないから、読んでいて楽しい。
林芙美子の初期短編集である。
9編のうち、女が語り手なのは「風琴と魚の町」「耳輪のついた馬」「清貧の書」「田舎言葉」「人生賦」
こちらは男が語り手。「魚の序文」「馬の文章」「牡蠣」「山中歌合」
女が語る小説のほうがおもしろい。
へ理屈をこねないで、生きることに真正面から取り組んで一所懸命である。
ささやかな幸せを大事にして、にこにこしている。
男が語るほうは、収入がないのに高い借家に引っ越したり、やっと稼いだ日銭を自分だけの飲み食いに使ってしまうが、
生活に困った女房が女給になるのには反対で、帯まで一六銀行に入れて紐で着物を結んでいるのがだらしがないと批判する。
女の目のつけどころ、男の目のつけどころが思ったとおりにずれているのがおもしろい。
文章が少しも古めかしくない。
歯切れのよさがだんぜん気持ちがいい。
「放浪記」「浮雲」も、もう一度読んでみたくなった。