史実に八犬伝的ファンタジーをふんだんに盛り込んだような作品。ヒロインの麻也姫には「甲斐姫」という実在のモデルがあるが、風太郎はこの日本のジャンヌダルクを更に魅力的なキャラクターにしている。本当の主人公は下々の世界でたくましく生き抜いてきた7人の香具師で、この作品が長いのは前半で彼らの生き様を詳細に描写することによって、読者に感情移入しやすいように準備しておくためだ。
本来とうてい交わることのない二つの身分が、運命的出会い、突然生まれる強い人間的な情、一念の成就にかける執念と行動力、多くの悲しい出来事を共に乗り越えるうちに生まれる共感を通じていつのまにかその垣根が消え、最後に一つになるのが感動的だ。憎らしいまでに強い風摩忍者に力を合わせて立ち向かう香具師と(その中の一人悪源太にメロメロの)7人のくの一といつの間にか読者は一心同体となり、連帯感と悲哀をわがことのように感じてゆく。明るさと悲しさが同居したラストは得も言われぬ余韻を残す。
あらゆるものに恵まれ安全な環境で長生きを(おそらく)する現代のわれわれは、その長い人生の中で、彼らが見た生命のきらめきをたった一度でも経験することがあるだろうか。