平成23年7月初めにNHK BSプレミアムで、一挙に東山画伯の絵画制作の舞台裏が放映されたので、これを機縁にこの本を読んでみた。画伯は冒頭に「ただ無心に眺めていると、相手のほうから、私を描いてくれと囁きかけているように感じる風景に出会う。」ことがあると述べている。実際に私の経験からも自然に身を置いていると、こうした声ならぬ声を聞くことがある。その場に呼ばれていくと、その時は傑作を撮ってやろうなどと作意する我は一切忘れて、無心のうちにシャッターを押し続け、感動の余韻に浸って解き放たれ歓喜している我を見出すことがある。写真家故前田真三氏はこのような体験を「出会いの瞬間」という言葉と一連の作品で表現している。桑原住雄氏は親鸞の言葉「遭い難くして今遭うことを得たり」を引いて、他力の本願に目覚めた画伯の境地と指摘している。とはいえこの邂逅の謝念にいたるまでには、有名になる前の父母兄弟との生別による悔恨、死と向かい合った軍隊生活、絵画制作の中での苦悶と葛藤、これらの自力の参学があればこそ、呼びかけたものに呼び返される稀有の邂逅を獲得できるのだと思う。画伯の精神遍歴と懺悔の記録である。