とくに楽器や東洋音楽、タイに興味がなくても、小学生から大人まで誰でも十分に楽しめる文学性の高い作品です。これほどの傑作が国際的な賞をとっていないのも驚きですが、タイでは爆発的にヒットしてよかったです。タイの映画製作の水準の高さもよく示しています。タイというと、ジャングルの象やスラム街、セックス、喧騒な繁華街しか思い浮かばない平均的日本人には必見の作品かもしれません。タイの人々の高尚な精神文化をこの映画を通じて知り、見方が変わる可能性があります。私自身、タイ人、とくにバンコクの人達は総じて俗悪な物質主義に染まっていることが多いと思っていただけに、ラナートという民族楽器を通じてこれだけ純粋無垢なものに触れると根底から心が洗われるような思いでした。
ただ、映画の中では幾度も、やや過剰なほど回想のシーンがあり、現在との境界が曖昧なので、その点は十分注意しないと印象が散漫になります。二人の演奏者の対決と漫画風にとらえると内容はわかりやすいですが、逆にそうした説明をすぐには許さないほどの質の高さがこの作品にはあります。歴史感覚の鋭さ、心理描写の重視、民族の精神性への回帰、カメラアングルの上手さ、等など、多くの意味で恐らくタイ映画製作史上、画期的とも言える作品のように感じます。英語字幕も添えて、日本・タイの他、世界の至るところで愛されるにふさわしい作品です。