中学で全国制覇したサッカー部のレギュラーでありながら、膝の故障で再起不能を言い渡された近江成近(おうみ なりちか。表紙左。男)は、部活をどうするか迷いつつ、高校の珠算部の面々(3人。同好会降格手前)と、それとは知らずに個別に顔を合わせていた。挙句、課題の再提出に、担当教師を探して赴いた先が、珠算部勢揃い(担当教師=顧問教師含む)の現場。
そこで偶然行われていた、フラッシュ演算やらいう、電光掲示板に高速で連続表示される数を合計する、活動(?)にぶつかって、高速表示される数字を読み取るだけなら、サッカー時代に鍛えた動体視力+瞬間認識力で、凄い結果を叩きだした成近。
上がり症なのに学祭でクラスの出し物として、フラッシュ演算を披露せねばならなくなっていたヒロイン(表紙右)に、助けを求められ、ヒロインの幼馴染で珠算部に幽霊部員として所属している男への反発と、初対面からヒロインをかわいいと思っていたことから、とりあえず手を貸すことに。
そして、最終、フラッシュ演算は成功し(オチがつくが)、成近とヒロイン、珠算部の面々の、拓けていくだろう将来を暗示するようなラストで終わる。単巻完結。
珠算の話が背景に流れているが、実際にメインで描写されるのは、成近とヒロイン、ヒロインの幼馴染が、それぞれ個別に抱えている苦しみに区切りをつける、あるいはそこから抜け出すための目途を手に入れるまでの各々の行動と想い、やりとり。
体育会系気質の成近、明るく元気で無鉄砲だが優しく打たれ弱いヒロイン、成近と犬猿の仲でヒロインにほのかな想いをもってるらしい強面の幼馴染。その3人の、行き違いやカラリとした反発心、体育会系特有の突破力や自然な気遣い・優しさなどが、相互に、或いは複雑に行き交って、それぞれが自分で、自分の問題にまっすぐ向き合えるようになるまでが、コミカルに爽やかに、だが深みをもって描写されている。
珠算部の残り一人(男)と顧問教師(男)も問題を抱えているが、書ききれなかった、というのは、あとがきでの作者の弁。
実際、成近は世の中すべてサッカー、と言わんばかりの典型的なサッカー少年で、当人はすでに折り合いをつけた気でいたが、家族から見たら未練と悔しさはバレバレだった、という、定番だが解決は相当難しいだろう問題を、自覚なしに抱え、ヒロインの上がり症は、そのきっかけは、むしろその程度で良かった、対人恐怖症とかひきこもりを起こしてもおかしくない(というか、むしろそうなるのが普通なような)というレベルの出来事。ヒロインの幼馴染も、私などは、あんたよくまともに学校来てるな、というか、よくまだ耐えてるな、と思った面倒事を抱え込んでいる。
その3人の話だけでも、単巻で、ある程度ケリをつけるまで持っていったのは凄いと思う。無理矢理感のない構成力と、言葉だけによらない表現力は、さすが、と素人目でも思わされるものがある。
前述のように、普通はどうしても暗い部分がでてしまうレベルの悩みを描きながら、「爽やか」と題していいと思ったのもその一つ。
問題は完全な解決には至らなかったが、そのことがむしろ、ラスト近辺でのヒロインの言葉と併せ、彼らの未来が明るくなるだろうと感じさせてくれる。
思春期から大人まで、一読の価値はあるだろう、良作。
※ベタ褒めしながら、評価を星5にしなかったのは、やはり不完全燃焼の感があるから。全3巻完結くらいにできていたら、傑作といわれるような域まで、いっていたんじゃないだろうか。