堀江敏幸のエッセイに追悼文の形で文章が収められていて、それが非常にこころがこもっていたので読んでみました。実は、恥ずかしながら須賀敦子の存在さえ堀江敏幸の文章を読むまで知らなかったのですが、あまりの素晴らしさに気持ちが震えました。イタリアに暮らした10数年の回想をまとめたものですが、様々な人との出会いと別れが、飾ることのない丁寧な文章で綴られています。ミラノに拠点を置いたカトリック左派のコルセア書店での交流を通して、印象に残ったひとびとの人生の一場面をイタリア(おもにミラノ)を背景に、決して近道を選ばず、おおげさに騒ぎたてもせず、しとやかにじっくり描きこまれています。それは、非常にリアルな細密描写ではなくて、印象派の画家たちの筆致に似ています。練りに練り、考えに考え、鍛えに鍛えたその文体は、全く過不足なく、読者たる私を勝手知ったる者のようにミラノの場面に誘います。「美しい日本語」とひとことでは片づけられない、でも紛れもなく美しい日本語が脳髄に沁み込む。どこが美しいのか文章を読み返しても定かには分からず、ただただ須賀氏の思いの深さに圧倒され、感動は深く深くこころの底にまで浸透していきます。あ〜、こんな文章を書くひとがいたんだという、私にとってはあまりにも遅い発見が腹立たしくもあり、本を読んでいて本当に良かったとしみじみと思います。