元フリーターのバンドマンがわずか10万円で設立したレーベルが数年で年商2億円の会社に成長ーーギタリストである著者は、自分のバンドのCDを出すときに「レーベル名」がある方がかっこいい、という理由で「残響レコード」を作る(その後すぐ1千万円出してくれる「エンジェル」が現れるのだが)。90年代の音楽バブル期ならいざ知らず、レコード会社やCDショップが軒並み潰れているこの00年代においては正に奇跡的、であろう。
現役のバンドマンあるいはミュージシャンが会社を経営することは、海外ではザ・ビートルズのAppleやハーブ・アルパートのA&M、日本ではフォーライフなどが有名だろうが、案外少ないような気がする。(「元」はたくさんいるだろうが)。恐らく、現役だとついつい「どんぶり勘定」になって失敗するのが多いのではないだろうか。
著者が目指したのは自分と同じように90年代のオルタナ/グランジ系に影響を受けた30代のロック好きに受ける音楽をリリースすること(ビジネス戦略として考えると自分の得意な領域に特化する)。そしてレーベルのイメージを統一し、「ブランド買い」をしてもらう。そのためにはいくらいいバンドでもイメージに合わないものは契約しない。発売までにプリプロを繰り返し、入念に仕上げをする(丁寧な商品開発)。無駄な経費はかけず少数精鋭で運営するが、スタジオ建設やこれぞと思った時には投資を惜しまない。理科系というだけあって合理的であり、冷静である。ミュージシャンが「ビジネス書を読むのはためになる」というのは意外であるが、その方法論を聞くとなるほど勉強している。
書かれていることは他の方がレヴューしている通り「革命」というものではないが、少ない宣伝費でもメディアやクリエイターの共感を得て最大のものを引きだしたり、ライヴを重要視し会場でグッズと共にCDを販売したり、レーベル、マネージ(主にライヴやグッズ)、音楽出版(放送やカラオケからも収入がある)を抑え(水平統合)儲けを出し続けている手法は、音楽業界の原点に立ち返ったようなむしろ正当過ぎる方法論だ。また業界が(本当は)嫌いなレンタル業界のTSUTAYAと積極的にPPT契約(レンタル1回ごとに課金)を結んで「残響コーナー」を作ることでレーベルを認知させたはしているが、意外なことに配信やネットをそれほど重視しているようではなかった。
また「普通は儲からない」という海外アーティストと契約し、海外のバンドとツアーすることが刺激になるという発言は
ニッポンのうた漂流記 ロカビリーから美空ひばりまでという本で洋楽制作部で邦楽を制作したらオシャレな音楽ができた、とあったのに呼応しているかのようだ。スタジオ設立もそうだが、特に他のレコード会社だったら親会社が数字だけで斬り捨てるような旧い手法もやり方次第でプラスになることも実証している。(EMIがファンド傘下になりアビーロードスタジオを売却しようとしたり、サザンもレコーディングしたビクタースタジオを売りに出しているニュースもあった)
就職希望者に対しては、ただ音楽が好きというだけではダメで、笑顔で人の話をよく聞き、遅刻をしない、などを重視するのは他の業界と同じ。むしろ業界の垢に染まった人間や偏った人を敬遠する、という。ただし真面目なだけではできない、とも。河野社長は自分は運がよかった、と繰り返すが社長自身がミュージシャンであることや真摯な姿勢が、契約したバンドや周囲に信頼されたのだと思う。金だけを考えれば大手のレーベルに契約をさらわれても不思議ではないのだから。
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のめりこみ音楽起業―孤高のインディペンデント企業、Pヴァイン創業者のメモワール (YOU GOTTA BE Series Extra)」と読み比べてみるのも面白いと思う。