音楽の生存価!?このタイトルに強く惹かれた。音楽に生物学の用語を当てはめるとは!と驚いたが、その内容も決して期待を裏切らないものだった。生存価とは「ヒトの生存や繁殖を助ける機能」という生物学の用語だ。従って「生存価がある」とは、その機能がヒトが生存するために必要不可欠なものであることを意味している。本書で筆者は「音楽には生存価がある」という立場から論じ、「ヒトはなぜ音楽を持っているのか?」という難問に自然科学の視点から果敢に挑んでいる。音楽は単なる娯楽、暇つぶしではなく、人間にとってなくてはならない存在であること、つまり進化の長い歴史を通じヒトがヒトとして生き残るために大きく貢献してきたことを、数々の科学的証拠から納得させられる。
「音楽は芸術なのだからその本質を科学で解明することなど不可能だ」或いは「音楽への冒涜だ」と思う人もいるかもしれない。しかし第二部「かつて音楽は科学だった」の章をみると、そのような根拠のない感情的な思い込みは払拭される。音楽と人間との関わりを冷静かつ客観的に分析することこそが、音楽の存在意義を高めるためにどれほど重要かがよく分かる。また近年マスコミにより流布した「モーツァルト効果」や「日本人の脳の特殊論」が、まったくのデタラメであることに多くの人は驚くだろう。さらに「音楽と脳」の章では、脳科学を駆使した最新の研究がレヴューされており、音楽に携わる人全てにとって必要な知識が網羅されている。
筆者の単一分野に捕らわれない幅広い知識と洞察力には舌を巻く。これほどまでに音楽の地位を高めようとしている本に出会ったことはない。あまたある「音楽の専門書」を読んでも「音楽とは何か?」という疑問の答えは得られず釈然としなかったが、この本を読んで目の前の霧がすっきりと晴れた。この本は音楽の常識に自然科学のメスを入れた、斬新でセンセーショナルな作品だ!