かつて「小林秀雄のモーツァルト論」の呪縛から我々を解き放ったくれた高橋悠治の文章を、久々にまとまった形で読めるのは至福の一時である。
散文詩や箴言集のような文章が多すぎるという感も否めないが、贅肉をそぎ落とした文体は、現今の「感動中毒現象」の対極にあって小気味良い。
音楽に限らず、日暮れて道遠しと思わざるを得ないことだらけの世界ではあるが、あきらめずに前進を続ける著者の活動には勇気づけられる。
私的な事情で、約30年間行ける限り聴いてきた演奏に接する機会は当分望むべくもない状況にある者だが、著者の活動が刮目に価するものであることは言うまでもあるまいと思う。