1984年1月から87年8月まで中央公論に連載された司馬最後の小説である。
舞台は1600年代なかば、明が衰え清が勃興する時代の中国である。日本に漂着した女真族のお姫様を故国満洲に送り届けるため、平戸の武士桂庄助が命をかけて大陸に渡る。大陸では女真族に加わって明との戦闘で活躍し、歳月を経て藩主への復命のため日本に帰ってくる、という壮大なスケールの冒険譚である。
江戸初期、実際に大陸に漂着し、建国直後の清に保護されて激動の時代を見聞した竹内藤右衛門という船頭がいたそうだ。とはいえ、彼が本作のモデルというわけではなく、登場人物は完全に司馬の創作になるもの。トレードマークの歴史小説ではなく、むしろ初期の冒険活劇作品を彷彿とさせる。
冒険活劇としてのストーリーの面白さはもちろんだが、司馬がこれまで作品のなかで取り上げてきた主要テーマ、すなわち男の典型としてのダンディズム、日本人の精神、中国文明圏の中での朝鮮と日本などが濃厚に凝縮されていて、その意味で司馬の集大成というにふさわしい作品である。
どういうわけか執筆前から小説を書くのはこれで最後と決めていたらしい。書き上げた時はまだ65歳、死の8年前とはいえ、まだ体力的な衰えをいうには早い。
「それはべつとして、庄助やアビアはいつ死んだのであろう。
そのことを詮索する根気は、筆者においてもはや尽きた。」
司馬はなにかに絶望していたのであろうか。ほうり投げるような結びの言葉が印象に残った。