「花と龍」を読んだすぐ後で、本書を購入した。
本書は、火野葦平自身を主人公にして(仮名になっているが)
終戦前後の様々な混乱や作家としての戦争責任に向き合う苦悩が描かれている。
「花と龍」ではヒーローとして描かれていた父親も登場するが、
本書ではかなりかけ離れた人物として描かれており(多分こちらの方が本当に近いと思われ)、
「花と龍」のファンはがっかりするかも知れない。
葦平は戦時中に「麦と兵隊」などの従軍記でベストセラー作家となるが、
終戦後は戦犯作家と批判されて公職追放の処分を受けたりしている。
本書の中で、敗戦後の混乱する駅で見知らぬ復員兵から、
あんたは報道班員で戦地で文章書いて大金儲け、
また、あんたが勝つ勝つと言うものだから一所懸命にやって来たがこのザマだ、
となじられ、大勢から嘲笑される場面があり、
実際にはその様なエピソードは無かったらしいが、
終戦後の復員兵らの姿に接して葦平はそんな風に批判されても仕方がないと
感じたのだろう。
最後の方で米軍将校から尋問される場面があり、
葦平が戦争責任について自身の考えを堂々と述べるのだが、
尋問が終わった後で日頃考えていることをそのまま語ったつもりだったのに、
言葉に出してしまえばみな嘘になってしまう、と自己嫌悪に陥り、
同時に真実は文学を通して表現するしか方法はないのだと悟る。
その文学を通しての弁明が、まさしく本書で書かれている事に他ならないと思うのだが、
そんな葦平の苦悩が何の虚飾もなく正直に語られていると感じられた。
本書を書き終えた翌年に葦平は自殺を遂げており、
本書はまさに著者が全身全霊を傾けて完成させた傑作だと思う。