本書(佐藤賢一『革命のライオン 小説フランス革命I』集英社、2008年11月30日発行)はフランス革命を描く歴史小説の第1巻である。全国三部会の招集からルイ16世が軍隊をヴェルサイユとパリに集結させ、一触即発の状態になるまでを描く。
著者は東北大学大学院で西洋史学を専攻し、『王妃の離婚』『二人のガスコン』などフランスを舞台とした歴史小説を得意とする作家である。近年は近未来のアメリカを描く『アメリカ第二次南北戦争』、織田信長を女性として描いた『女信長』などのユニークな作品を発表している。その著者がホームとも言うべきフランスに回帰した大作が「小説フランス革命」シリーズである。
本書のタイトルにあるライオンはフランス革命初期の指導者・ミラボーを指す。このミラボーとロベスピエールを中心に物語は進む。本書ではミラボーが革命に傾倒した背景を表では進歩派を気取っているものの、家族には家父長的な暴君であった父への反発として描く(38頁)。
往々にして世の中を変える原動力は個人的な体験に基づく私憤である。記者が不動産問題を市民メディアに記事を発表するようになった契機も東急不動産(販売代理:東急リバブル)から不利益事実(隣地建て替えなど)を説明されずに問題物件を騙し売りされたことであった(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。
過去を水に流すことを是とする非歴史的な民族性を特色とする日本では、過去を忘れて心機一転する人を度量があると持ち上げる傾向がある。しかし、そのような人間ばかりでは反省も改善も進歩もない。何かを成し遂げるためには原点となった怒りや恨みを持続させることが必要である。
ミラボーはフランス全土に湧き上がる第三身分のアンシャン・レジーム(旧体制)への不満を実感するが、民衆のエネルギーだけでは方向性が定まらず、民衆を導く指導者が必要であると考えていた(47頁)。日本でも封建的な幕藩体制が行き詰った幕末には「ええじゃないか」が各地で発生した。しかし方向付ける指導者を持たなかったために世直しに向けての社会運動にはならず、エネルギーを発散させるだけで終わってしまった。
本書の特色は、表向きは強気な主張をしても、内心では軍隊に弾圧されるのではないかと怯えていた国民議会の議員達の心理を情けないほどリアルに描いていることである。議員達は決してスーパーマンではない。しかし、ほんの少し踏み出す勇気があれば世の中を大きく変えることができる。本書で描かれた革命前夜のフランス社会の行き詰まりは現代の日本に酷似する。強い人間でないとしても信念を持ち続けることが大切であると感じた。