デカルトは、世界は時計仕掛けのようであり、各部品を一つ一つ個別に研究した上で最後に全体を大きな構図で見ればその機械が理解できるように、世界も分かるだろう、と述べました。この「分解の後に統合する」という考え方は、分解に重点が置かれることになって「要素還元主義」が形成されました。しかし、水分子1個の性質から水や氷(結晶系、成長形("雪")...)の性質を予測するのが難しいことから分かるように、様々なモノは階層構造を持ち、(還元主義によって得られる)下層要素の情報だけでは上層や全体の振る舞いが予想できないことが認識されました。このような現象が「創発(emergence)」と呼ばれる訳です。(つまり"More is different(量が増えると質が変わる)"(P.W.Anderson)なのです)
本書のテーマ「非線形科学」は、そのような「創発」を理解するための"思考の道具箱"であり、この40年の間に様々な"道具"が揃ってきました。本書を読むと、非線形科学の泰斗である蔵本先生がこれらの"道具"をどのように日常の言葉で理解しているのか、「蔵本先生の頭の中」を覗いたような気分になれます。「現実の根底にある自然法則に気付くのは達人で、現実の根底にある自然の調和に気付くのは詩人である」(湯川秀樹)、この意味で蔵本先生は達人であり詩人ですね。
章立ては次の通り:第1章 崩壊と創造、第2章 力学的自然像、第3章 パターン形成、第4章 リズムと同期、第5章 カオスの世界、第6章 ゆらぐ自然
通読すると、「カオス」(グリック)/「複雑系」(ワールドロップ)/「SYNC」(ストロガッツ)や複雑ネットワークの本(「新ネットワーク思考」(バラバシ))の内容をざっと概観した気分になれます。数式は殆どありませんが、この分野に馴染みのない読者には少し歯応えあるかも。
なお、蔵本教授の最終講義録「非線形科学の形成−その一断面」はWEB上で公開されていますので、こちらも併せて見ると面白いでしょう。