努力の量と質について新しい視点でといた本。 お薦め。
本書の主張: 卓越性は才能ではなく、 正しい気構え(mindset)で目的性を持った練習法を延々とやり続ける努力によって達成される。 そういった練習を可能にする機会(コーチ、用具、地理等の環境)の要素もとても大きい。
卓越性(expertise)を研究する心理学者K. Anders Ericsson の影響下にある本であり、 よってグラッドウェルの「天才!」と内容がいくらか重なり、そこからの引用も多い。
独自の特色として著者自身が卓越性を達成したということ。
著者は卓球の元イギリスチャンピオンであり、国際大会でも活躍した。
それだけに一連の論文を自分自身や他のスポーツに重ねて説明する説得力がとてもある。
ただその分、取り上げる例がスポーツ分野に偏りがちである。
著者曰く、自身の成功は才能ではなく、 たまたま家のガレージに当時珍しい卓球テーブルがあり、たまたま熱中して練習相手になってくれる兄があり、 たまたま同じ学校の体育教師が有名卓球クラブのコーチであり、そのクラブは珍しく24時間練習できた、等の偶然にもたらされた数々の努力を意味あるものにする機会が重要だった。
達成者自身がこういうことを言うのをなかなか聞かないので面白い。
ただ本書は努力は必要条件でなく必要十分条件だと主張しており極端だ。
努力やそれを意味あるものにする機会や気構えの重要性を主張するが、生得的な才能の評価は低い。
しかし本書で紹介される研究や事例では才能に対して努力だけが重要だということを示しきれない。
娘3人ともチェスの名人に育て上げた学者は、孤児を同じように育てる申し出(大金)を断ったし、名門音楽院のもっとも有望なヴァイオリニストは例外なく10000時間の練習を重ねたという事実は、どんな子も同じ練習でそうなれることを示せない。
一般に知能が高いと思われるノーベル賞の科学分野の受賞者の知能が一般程度もしくは以下という話は聞いたことがない。
知能は心理学の主流見解では遺伝(生得的)も環境(後天的)も重要とされる。 こうした事実から、少なくとも努力が必要十分だといえないのではないか。
また脳は発達段階に応じて臨界期があり、言語や、音楽などは幼少期の正しい時期に正しい刺激を受けることが発達上重要とされるが、 既に脳が十分に成熟した多くの読者に、本書で多くあげられた幼少期からの努力以外の例示がもっとあればと思った。
本書の主張は楽観的で心地よいが、その裏づけが一面的であり、もっと生物学的、心理学的な点での裏づけが読みたかった。
ともあれ、努力と言えば黙々と量をこなす根性論が跋扈し、「天才」の華やかさだけが強調されがちな昨今に、努力の重要性を新たな角度で説明した本書は高い目標を持つ全ての人にお薦め。
蛇足だが、
同じ主張のグラッドウェルの勝間訳タイトルが「天才!」で本書が「非才」なのは興味深い。当然本書の訳のほうが優れており読みやすい。 グラッドウェルを読んでない人は読みやすい原著「Outlier」を薦めます。
また、初版は漢字の変換し忘れと思われる箇所がたくさんあり、かなり読みづらい部分があった。