キューブリックの映画は常にその時代の主流若しくは最前衛の映画スタイルを踏襲しながら、つまり一見スタイルを拝借しているが、そこに唯一無二の「キューブリック・ワールド」が口を開いている、という手法(結果的に、だが)であり、この記念すべきメジャーデビューの第一作も同じである。
確かに「習作」という言葉も頷ける。そして、「巨匠の習作」というものは、そこに今後発芽すべき全ての種子の萌芽を含むものであり、未熟な荒さは初々しさと可能性の発露である。
この作品は「フィルム・ノワール」の踏襲、それも完璧な踏襲(実はキューブリックは「伝統主義者」であったが、「革命的な人物」とは、足場に「伝統」を据え置いているものである)であるからこそ、突如入り込む予期せぬエッセンス(例えば、主人公が見るポジネガ反転の悪夢=後の「2001」のスターゲートの彷彿)が最大に功を奏するかたちになっている。しかし、この時点においては、既にして現れた「キューブリック・ワールド」の「一瞥」は、ただ「奇妙」なものとして看過されていたであろう。
・・・固い「理論」は別にして、私には純粋に楽しめた面白い映画であった。原題の「Killer's Kiss」の意味がラストにおいて判明するカタルシスも特筆事項であるだろう。1950のNYの風俗、街の貴重な記録と資料的価値も見逃せないだろう。この一時間の異国の昔の白黒映画は、私にはまさに夜見る「夢」と同じ感覚をもたらす。
「原点」である本作と「到達点」である「アイズ・ワイド・シャット」の関連も考察されたい。それは「円」を描く。
鑑賞前は星は3つか4つになると予想していたが、それはあくまで他の「怒濤の文句無し5つ星キューブリック作品群」に比しての予想だった。レヴュー編集画面の「この商品を星の数で評価してください」の★印をポイントすると、★一個の「I Hate It」から5つ星の「I Love It」までそれぞれ評価基準の参考の句がポップアップで出る。「I Love It」なので5つ星とする。