アイルランド移民としてアメリカで生を受けた巨匠ジョン・フォード監督の代表作のひとつ。そしてこれは代表作にふさわしいフォード美学の集大成。笑いあり、涙あり、喧嘩あり、そして情緒ありとフォード映画の文法をみごとに、そして丁寧に踏襲しています。
長年暮らしたアメリカから故郷アイルランドにもどってきた“静かなる男”をめぐり、騒動が持ち上がる物語。アメリカ人としての自由な精神と、故国アイルランドのなれない習慣との間で苦悩する主人公をジョン・ウェインが好演。といってもいつもの優しく、猛々しいウェインなのですが、そんな個性が実にうまく生かされています。このアメリカ精神とアイルランド精神とのぶつかり合いがフィルムの主旨でもあります。おそらくフォード監督自身が自分の問題として感じていたことであり、ウェイン扮する主人公はその苦悩の代弁者だということもできます。“静かなる男”に惚れるアイルランド娘にモーリン・オハラ、娘の気の荒い兄にヴィクター・マクラグレン、皆のとりなし役にバリー・フィッツジェラルドというアイルランド丸出しの配役も素晴らしい。
地平線のシルエットと空の対比、走る馬を撫でるように追うカメラ、雄大な風景の中にちりばめられる人々。フォード監督は得意の西部劇風演出をのびのびとアイルランドの風景に馴染ませます。そして、最後の長々と続く明るい喧嘩の楽しそうなことといったらどうでしょう。皆の心のわだかまりも、すっきりとフォード流に解決してくれるところも嬉しい。
なによりもフォード監督のアイルランドへの熱い思いが素直に出た作品として本編は忘れがたいものになっているのではないでしょうか。
ただ、このヴァージョンの映像はいただけない。テクニカラーの美しさを堪能しきることはできませんから、ご用心。