青鯉(あおこい)と読みます。科学知識を駆使した大人のファンタジー。
全身に浮かぶ見事なうろこ模様。太古の地球に水をもたらしたという彗星。天然水。魚たちの恋の季節。
文中に散りばめられた美しいパズルの一片一片を拾い集めるようにして読んでいくと、しだいに壮大な絵が見えてきます。
平凡なサラリーマンの亮は突然異様な体臭に悩まされるようになり、近所の老人の「水につかれば臭いはとれる」という言葉に半信半疑でプールへ行きます。
そこで匠という青年に出会う。亮の体に浮かぶ鱗紋は雄、匠の体に浮かぶ鱗紋は雌。二人は本能的に惹かれあいます。
荒唐無稽な設定ですが、妻の鬱屈や娘のちゃっかりぶりなど、サラリーマンの日常が活写されるので全然嘘くさくありません。
しかし同時に、こういった生活背景に興味のない方にはつまらないかもと思いました。
「努力します」と律儀に答える亮に、「努力など何の意味もない。ただ、そういうこともある。それだけのことです」と老人が諭すシーンは象徴的。
自然の営為や生命の神秘に人間が太刀打ちできるはずもなく、謎は謎のまま、身を委ねるしかないのですね。
最後、水に帰っていく老人の姿とこの会話が重なり、合理性を超えたところで納得してしまいました。
BLらしい派手なエロシーンはないのですが、作品全体に官能が溢れています。水の中の交歓はため息が出るほど綺麗。
この本をいまいち楽しめなかったお嬢さんがいたら、十年後に再読してほしい。
他二編を含め、年月の流れに耐えうる、個性的かつ普遍的な物語です。