ぶっちゃけ感想を一言でいえば期待外れな一作。まぁ余所でもレビューを読まれる人はいるでしょうから書いてしまいますが、今作は矢吹駆が登場しません。別シリーズの登場人物(というか笠井氏の分身)である宗像とシリーズのヒロインであるナディア・モガールを中心として謎の解明がされていきます。
ストーリーも盛り上がりに欠け、実に地味な展開。旧家における毒殺未遂事件を中核として、ひたすら面倒な検討が延々と続きます。
笠井氏がやろうとしたことは分かるんです。かつて法月綸太郎氏が論じ、氷川透氏が総括した「初期クイーン論」に対する笠井氏なりの解答もしくは立ち位置を表明しようというわけなのだと理解しているわけですが、これが小説として読んでいて楽しいかというと首をかしげざるを得ないわけですね。
事件関係者の証言や、出てくる証拠が二転三転し、読者はどれが事実なのか、さんざん引っ張り回されます。ある意味捜査官と同じ立場に置かれるわけです。捜査官は事件関係者の証言を、「完全な事実」「完全な虚構」「一部事実で一部虚構」「錯誤による事実に反するもの」のすべてを想定して捜査しなければならないわけで、おいしいところを摘み食いしていく名探偵とは、しなければならない作業、想定しなければならない可能性の量が比較になりません。それゆえ、推理小説における警察官はフットワークが悪く、愚鈍で頼りにならない存在として名探偵の引き立て役になるわけですね。
つまり、今回は読者がまさにその立場になってしまうため、読んでいて爽快感がない。ただ登場人物が推論しているのをボーっと見ていることしかできないのです。ゆえに私はエンタテインメントとしての推理小説として、今作に高い評価ができません。もっとも今作はあくまでキャラクターの顔見世であって、次作が日本編の本番という可能性も高いわけですから、まだまだシリーズからは目が離せないんですけどね。
追記
それにしても、20年前が舞台設定とはいえ、登場人物たちが飲酒運転しまくりなのが気になってしかたがありませんでした。