『小説新潮』誌に連載された池波正太郎の回想記。幼少時から株式仲買店の店員時代、海軍へ入って復員後小説家になるまでの前半生が時系列で綴られている。
池波正太郎を最初に読んだのは『男の作法』だった。以来時代小説よりもエッセイを多く読んでいるが、本作品でそれらに登場する家族や職場の上司、先輩、友人、食べ物のことが一つに繋がった。
この作品が書かれたのは1968(昭和43)年だから1923年生まれの池波正太郎はこのとき44歳。自身「そもそも、まだ回想記のごときものを書く年齢ではないし、」とあとがきに書いておられる。
しかし大正生まれで戦前、戦中、戦後と激動の時代に青春を送ったこの世代は一生を2度、3度生きる程の濃密な体験をされており、平易な文章で書かれた250頁余りの本ながら内容的には大変厚みのある、池波正太郎の原点とも言える作品だと思う。
巻末に加えられている短編『同門の宴』を読むと、『男の作法』のみならず著作の全てが一本の太い糸で繋がっており、幼い頃から青春時代までの良質な体験が池波作品として見事に花開いていることが分かる。