川口能活は、トルシエの猫の目のように変わるキーパー起用に繊細な心を悩ませる。しかし、苦悩の先に見いだしたのは、人々に支えられて生きている実感と、サッカーへの変わらぬ思いだった。
中村俊輔は、所属チームである横浜マリノスの戦力ダウン、代表での不遇、マスコミからのバッシングからくる焦燥感から、故障に至ってしまう。しかし、その長い休息の中から、戦う心を取り戻して行く。
森岡隆三は、0-5という歴史的大敗を期したフランス戦の記憶に、うなされるほどさいなまれる。しかし、決してサッカーエリートではなかった彼は、理性的に戦術と自分自身を分析し、サッカーのみならず自らの役割を果たすことによろこびを感じている。
「ゴールへの気持ちが見えない」と批判されてきた柳沢敦は、2001年のキリンカップ、パラグアイ戦以降、主軸のストライカーとして定着した。しかし、その裏には彼のかたくななまでの「理想のストライカー像」へのこだわりがあった。
中田英寿は、その稀有な存在ゆえに、当時の所属チーム、ローマと日本代表の間での板挟みに苦悩する。そして、セリエA優勝をローマへの置きみやげに、パルマへ移籍するが、そこでのチームの著しい不振。そんな中でも中田は「今、足元に広がる環境の中で、自分にできることをやるだけ」と道を切り開いてゆく。
「あの出来事の裏にこんなことが」という驚きはサッカーファンにはうれしいが、各選手が真摯(しんし)に自分の人生と向き合い、戦う姿こそが著者の描きたかったものだろう。普通ではコメントしにくい選手たちの心の奥底をそっと開くことに成功した著者の手腕と人間性にも驚かされる。(大脇太一)
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中田への取材で注目された彼女だけにこの本でも中田論が最も充実している。森岡についても「サッカーマガジン」などでは取り上げられていなかった情報を読むことができた。ただ中村や柳沢のサッカー論は彼らがよく口にすることをまとめたような感じである。
ワールドカップをより面白くみるために「予習」のつもりで読むのにはちょうど良い。しかし金子達仁ぐらいの個性的文章を読みたいのであれば、少し物足りないだろう。「切れている」金子の文章を5つ星とすれば、そこまでは踏み込んだ分析をしていないという意味で4つ星にした。
収められているのが川口、俊輔、森岡、柳沢、中田英。結局、中田英と柳沢以外は主力として02年のワールドカップを戦えなかったじゃない、というのはおいといて、改めて当時のことを読みながら振り返ってみると、フランスやスペインに対してフレンドリーマッチを戦うということが、当時は「冒険」だったんだな、ということを思い出した。つまり、日本代表はヨーロッパの強豪にアウェイで戦うという初めての経験に震えていたんだと。
みんなスタット・ドゥ・フランスで5-0で負けた後は打ちひしがれていたし、スペインとやって守りまくって1-0で負けたのを自信が崩壊せずによかった、みたいな感じで語っている。
こうみると、やっぱり日本代表は進歩しているんだと思う。いまは、どんなチームを相手にしたって、スペイン戦みたいに5バックで守るみたいなことはしないだろうから。
文庫版のために書き下ろしたと思う最終章「青を継ぐもの」で中田が語っているジーコへの信頼は本物だろうし「中盤からDFまで、すべてが連繋して補っていきたい。それができるチームだと信じている」(p.231)というのは、まぎれもなくジーコの考えだと思う。
これまでも引いてこない相手に対しては、いつでも互角以上の戦いをしてきた。中盤でボールを支配し、FWが決めてくれれば、きっと「いい結果が待っているはずだ」(p.232)と思う。
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