表題作を数頁読んだだけで、たちまち物語のなかに引き込まれ、ほとんど一気に読破してしまった。
物語の力強さにこれほど惹かれたのは久しぶりのことだった。
蜂飼耳や小池昌代といった、優れた短篇の書き手たちが勧めていただけに、著者二冊目の短篇集とは思えない手練の円熟味を感じさせる作品だった。トレヴァーやマクガハンと同じくキーガンの場合も、アイルランドの作家らしく、語り口自体はとてもドライで、ときにぶっきらぼうですらあるのに、人間を見つめる犀利な視線のなかにもかすかな温もりを感じることができる。だから、意地悪で哀しい話が多いにも関わらず、読後感は思いのほか爽やかで、いやな後味を残すこともない。
人物の心理をくどくどと描写するかわりに、それを空や海、窓から射しこむ光といった自然の隠喩によって巧みに表現する。
犬や馬と一緒に田舎で(おそらく独りで)暮らしているという著者の最大の特色だろう。
収録された八篇の作品は、どれもお勧めだが、とくに「青い野を歩く」「森番の娘」「波打ち際で」がよかった。
「降伏」という短い作品で、それまでいけ好かない嫌な人物に思えた主人公が、終盤近く、ある決意を胸に自転車で野を駆ける瞬間、一転して彼が魅力的な人間に映るところもおかしかった。
ジョイスの『ダブリナーズ』、トレヴァーやマラマッドの短篇が好きな人には、とくにお勧めしたい。
著者のその他の作品も、いち早く翻訳されることを心待ちにしている。