6編の短編が収録されています。
■■人類の未来形■■
未来の人類の形態を描いた短編が4つ収録されています。
・低重力の彗星で生まれ育ち惑星で暮らせなくなった人々
・肉体を機械化し真空の宇宙でも活動できる人類
・仮想空間の中で生きる人類
・人類の本能と衝動を基盤として成長し人類の末裔を自認する機械知性
これらの未来人類は、地球を離れ宇宙で暮らし、
巻末の短編ほど、人類の活動領域は拡大し、
人類の形態は現在の人類からかい離していっています。
おそらく、このような順番で人類は進化していくのだろうと
作者は思っているのだろうと思います。
人類が現在の形態からかい離してゆく未来を、作者は、肯定的に描いています。
すべての未来形を受容し、希望に満ちた未来として夢見ている作者の視線が感じられます。
(1)彗星都市のサエ
彗星上の都市で生まれた少女サエと謎の少年の物語
閉塞感から外を指向するストーリー以上に、
彗星都市の構造や経済活動などの設定が面白いです。
(2)静寂に満ちていく潮
肉体を機械化し、準惑星ケレスで、暮らしている未来人トレントと、
小惑星に飛来した異星の知的生命体とファーストコンタクトの物語
機械化した人類が、性差も乗り越え、五感を超えた新コミュニケーション
手段を発明し、それをフィジカルコンタクトに応用し耽る姿は面白いです。
この新手段の延長に異星の生命体とのコミュニケーションもあり、
生命と生命の究極のコミュニケーションを描いた物語にもなっています。
文明と文明の接触ではなく、個人と個人の出会いとコミュニケーション
として描かれたファーストコンタクトは秀逸です。
(3)守るべき肌
人類が、肉体を捨て仮想空間で生きる時代のファーストコンタクト
仮想空間に人類が移住する設定は、神林長平の「魂の駆動体」等でも既出ですが、
仮想空間のベースとなるシステムが宇宙に浮かぶ自律的な巨大システムという点が
小川一水らしさが溢れています。
肉体への執着から見事に解脱し、仮想空間での生に明るい希望を持ち生きる人間を、
人類の未来形のひとつとして見事に提示しています。
(4)青い空まで飛んでいけ
地球外生命との出会いを求め永遠に旅を続ける人格をもった宇宙船エクスの物語
エクスは、未知の生命体との接触のリスクを恐れていますが、
未知との遭遇を希求する衝動を基底として設定されているため
未知の生命を求める旅をやめられません。
それゆえ、基底衝動を設定した人類を、
「傲岸不遜でハタ迷惑なチビクソ肉ブタ人類どもめ」
と恨んでいますが、人類の末裔であることをい自認してもいます。
エクスが、冒険心と恐れの相剋に悩つつも、いくつかの生命との出会いと別れを
通じての成長する様子が描かれています。
こういう人類の未来形もあっていいのかなって思います。
複数の機械ユニットの集合が全体として単一の知性と意志を持ち、
下位ユニットには個別の自意識を持つユニットもあるという
エクスの設定もとても面白い内容です。
■■現代物■■
現代を舞台としている短編も2編収録されています。
・グラスハートが割れないように
人の祈りを糧に育つという植物にハマった女子高生とその彼が
精神主義と合理主義の相剋と直面する現代の物語。
SF的な展開はありませんが、ハートウォーミングストーリーです。
・占職術師の希望
人の天職が判ってしまう男の物語。舞台は現代、SFも宇宙もありませんが、
すこしハードボイルドの風味があり、不思議な清涼感がある物語です。