家庭の事情のため、暑く乾いた辺境の地にやって来た主人公の少女ハリー。特に美人でもなく、社交的でもなく、無口で、本を読むことと乗馬を愛する――たいていの男よりものっぽな女の子です。
彼女は唐突に、遊牧民の王であるコールラスに拉致されてしまうのですが……。
舞台は架空ながら、地中海沿岸のアフリカかアラビアあたりの気候を思わせる島国。イギリスの植民地風都市、イースタン。少女はさらわれて、本国からはその存在すら認知されていない遊牧民の国、ダマール王国に向かいます。しかし当のコールラス、実は、なぜこの少女を連れていく必要があるのか、自分でも今一つ把握していません。彼はただ自分のケラー――彼らが持つ特殊能力が示す声に従っただけなのです。
北方の異民族が迫り、新参者である異郷人たちとの協定の締結もかなわない今、ダマール王国は存亡の危機に立たされていました。
しかし、それに彼女が何の関係があるのか……。相手の尊厳を無視したやり方に出ざるを得なかった若い王は、虜である少女に負い目を感じつづけます。
ところが彼女は、、、「」の無い頁が何頁も続く――この小説はちょっと変わっています。登場人物が一言も口をきかない間も、話は淡々と、そして大きく動いてゆくのです。登場人物の心理が、科白によらず、物事や行動の描写で表現されてゆく――映画な演技と演出に重きをおいた、と、表現するところでしょう。
全体の構図はわりと単純で、感情の移り変わりも素直。強烈な個性を持った登場人物もおらず、おおむね勧善懲悪。展開もそう奇を衒ったところのない話です。しかしながら、なんだか不思議に小説は面白いのです。
多くの描写が裂かれた国と国の文化や考え方の違い。主人公が少しずつ何かに目覚めてゆくところ。全く会話の無い、見開きすべてが地の文という頁の方が、妙に面白かったりして。
スタイルという部分に関して、へえ、こんなのアリなんだなあと思わせるちょっと風変わりな小説です。