読み進むにつれ、バラ育種にこれほどの歴史があったかと驚く。「不可能を可能にする」遺伝子組み換え技術への漠然とした違和感が、綿々と連なった歴史や価値観の消失への恐れからくるのかもしれないと思い至らせる。
著者は、クローンニンジンの成功とクローン人間を作り出すことについて、どちらのインパクトが強いかを例に、科学者の視点と一般的視点の相違を説いている。「人間のクローンづくりが問題になっているときに、一般人に対して植物の挿し木の話から始めるのは誤解を招くこと」との下りは、謙虚に受け止めるべきだろう。
(日経バイオビジネス 2001/09/01 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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取材量はこの本でもあいかわらずだった。いや、『絶対音感』よりも数段上まわり、「圧倒的」だった。バラについて、考えられるかぎりの文献・サイト・人物を調べ上げたのだろう。「著者=サイエンス系」というイメージで考えていたが、人物評伝や経済・産業の要素についてもよく調べられていた。
というわけで、人の名前やバラの品種などの固有名詞がものすごい勢いでつぎつぎと出てくる。その勢いは、それぞれの人々が何をしたか把握するのを凌駕してしまうほどであり、しばしば頭を整理しなければならなかった。それほどに情報量がものすごい。
読んでいるうちに頭がぼおっとしてしまったが、第3章(五合目ぐらい)で、持ち直してきた。この章では文明開化から現在まで、日本でのバラ栽培の歴史が紹介されている。この章は時系列で書かれているので、軸がしっかりとしてより読みやすかった。
結局、本が出版された2001年時点では、本のタイトルにある「青いバラ」はまだ発明されていないそうだ。本の中にはいくつものテーマがさんざめいている。その中でも「遺伝子組替えによる『青いバラ』は許されるか」が比較的大きなテーマとなっている。著者のスタンスはニュートラルで、その答えは読者にゆだねられている。スタンスを明確にしないまでも、もう少しこのテーマをより大きな茎にして、内容をふくらましていけば、本の趣旨が明確になってよかったかもしれない。
とはいっても、バラによって生計を立てている方、趣味でバラの園芸をされている方などのバラ関係者は、関心のある話が多く出てくるにちがいない。一方、バラにとりわけ興味がない人は、本を読めばバラへの関心は着実に高まる。
昔からバラには青い色は出現しないと言われてきた。そのために「青いバラ」とは「不可能」の代名詞でもあった。そのために「青いバラ」は、多くの多くのバラ愛好家達を魅了してきた。
本書はそのような導入からはじまるが、「青いバラ」を題材としながら、それを単なるバラ育成の技術論に留めることなく、バラにまつわる様々な人々の思い、あるいはバラの園芸史、園芸文化論と、実に多様な切り口から迫るものだ。
又、前作同様!に実にこまめに多くの人とのインタビューを重ね、実地に資料にあたり現場を訪ねるという取材に裏打ちされたノンフィクションの迫力は抜群のものがある。調べ魔ということばがぴったりのこの努力には驚くべきものがある。
海外の文学作品に著された「青いバラ」をとりかこむ詩的感覚、企業で「青いバラ」の研究に取組む人々の一見乾いたバラへの思い、といった具合にバラにまつわる人間模様の描写は、この著者が単なる調べ魔ではなく豊かな感性を持っていることの証左だ。
日本で最初に西洋バラを取り寄せた山東一郎なる人物の素顔、「ミスター・ローズ」との称号で語られるほどのバラ育成家、鈴木省一等々の人物像にも大いに興味を引かれる。
近年のバイオテクノロジーの発展によって、この「青いバラ」の出現も夢ではないと思われるに至ってはいるが、果たして、「青いバラ」が出来たとしてそれは美しいだろうかという問いかけが繰り返しなされているが、読者もその思いに引き込まれる。
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