今回は「死墓島の殺人」にも登場した魁時新聞社の記者である一方井が大活躍しています。
「霧の塔の殺人」は「首挽村の殺人」「死墓島の殺人」に続く3作目になり、自分はこの2作も読みました。
3作品とも登場している人物がいたり、シーンが変わると事細かにその情景を描かれるのが大村さんの特徴でもあります。
さて霧の塔の殺人は男性の生首が発見されることから始まり、さらなる殺人へと発展、そして真犯人の悲しい動機が明らかにされます。
ただ今回は大村さんのウリのひとつでもある“横溝正史色”は薄いと思いました。
しかし3作品を読んでみて、大村さんの作品には上記に挙げた特徴以外にもう一つ大きな特徴があります。
それは今の日本で問題になっている社会問題を、うまく物語りに絡ませているということです。
霧の塔の殺人では、現在の日本の雇用問題、また社会や家庭からも孤立している若者の心の葛藤が描かれています。
それが物語りにどう絡ませてあるかはネタバレになるのでここでは書きませんが、
自分もただ物語りを楽しむだけでなく、改めて考えさせられる思いでした。
死体遺棄の理由、殺人の動機、ある若者と真犯人の心中、そして物語にも描かれている今の日本の社会問題。
前も後ろも、どこまで続くのかも分からないまさに「霧」のように、すべてがこの一文字に表されています。
ただ一点だけ残念なことがありました。それは登場人物の紹介がなかったことです。
自分は死墓島の殺人のレビューにも書きましたが、最初に登場人物の紹介があると感情移入しやすいんです。
前の2作品にはそれがあり、死墓島の殺人に至っては島の略図まであります。
すべての作品に登場する人物もいれば、当然その物語のみの人物もいますので、
できればその都度、登場人物の紹介があればなお嬉しいですね。
帯にもあるこの「殺人シリーズ」を今後も期待して、次回作を楽しみにしています。